テイラーのこと

テイラーがFacebookに、今日作ったヴィーガンのキーライムパイの写真をあげてた。

ネットで見たレシピで作ったという薄いグリーンのパイはすごく綺麗で、彼女の心が整っているのを感じる。



5年前テイラーはメルボルンの精神病棟にいた。

病院の中でも自傷行為を繰り返し、点滴の針を無理矢理引き抜いて血まみれになった写真を私に送ってきたりしていた。

この時にはまともな会話もできなくて、

“How’s things?”
と聞いても
“Things are things.”

とだけ返ってきたりするのが通常運転だった。


私は、テイラーが元々すごく問題のある思考の持ち主だったとは思っていない。

少なくとも私の中のテイラーはすごく頭のいい子で、クリエイティブで人の心を敏感に察知する繊細な人だった。

テイラーは健康的なライフスタイルを好んだし、お酒も一滴も飲まなかった。

平和的な考えの持ち主で、母国であるアメリカにいた時は女性の権利に関するアクティビストでもあったらしい。

ただいつもどこか空っぽだった。

テイラーは見た目はふわっとしてて柔らかくて、昔のピンナップガールみたいに「陽気でグラマー・おバカな女の子」のイメージを演じるのが上手だったけど、中身は冷たい空洞みたいな人だった。

どこか彼女の芯みたいなところはいつも冷たくて暗い空洞で、それを抱えながら笑っていた。



私がテイラーと会ったのは友人のルルを通してだった。

2人は当時メルボルンのストリップバーでバイトしていて、そこで知り合ったらしい。

私はその頃フェスを回ってバーでバイトしたりしながら、たまにオーストラリアのピープルという、日本でいうプレイボーイみたいなグラビア系の雑誌のモデルなんかをしていた。

元々ルルがヌードモデルの仕事をしていて、確かその紹介だったと思う。

彼女の紹介でピープル以外にも、アマチュア写真家の作品撮りのモデルなんかもした。

ルル自身が写真を撮るのもあり、彼女が紹介してくれる案件はどれも面白かった。

有名な写真家ではないものの、どの人もユニークで撮影はかなり楽しかった。

それぞれの撮影のエピソードも今思うと相当ブッ飛んでて面白かったのだが、それはまた別の機会に回想しようと思う。


当時ルルがたまにモデルをしていた90歳くらいの写真家おじいちゃんがいて、その人が女性3人を一緒に撮りたいというので私とテイラーが集められた。

旅費も宿泊先も全て手配してくれて、私達はメルボルンからキャンベラまで小旅行をすることになる。

思えば女子3人で飛行機に乗る小旅行をしたのなんて、これが人生初めてだったかもしれない。

私はいつも1人で旅をしていて、当時はパートナーがいたけど別の国に住んでたし、誰かと一緒に飛行機に乗るなんてことがなかった。

女子3人でキャッキャと旅したこの時のことは、私の人生でかなり貴重な思い出となっている。


ちなみにこの時の写真家・マークは当時90歳ながらめちゃくちゃエッジの効いた写真を撮る人で、部屋に飾ってあった生蛸を頭から被った女性の写真が印象的だった。

何度か個展も開いたそうだ。

彼の住む豪邸の中にあるスタジオで撮影は行われ、奥さんや娘、孫たちに歓迎されて私達は彼らのゲストルームに宿泊した。

この家族のこともなかなか衝撃的だったのだが…まあまたの機会に。

本当に、振り返ると自分の人生がものすごく特異だったことに気付かされる。



テイラーは決して人を攻撃したりするタイプではなく、どちらかというと人の要求をなんでも受け入れてしまうような子だった。

すごく可愛いのに、いつもクソみたいなヒモ野郎に騙されてお金を巻き上げられていた。

彼女がわざわざアメリカからオーストラリアに来たのは母親から逃げるためで、いわゆる毒親の母に女手ひとつで育てられ父親はいなかった。

「どこに逃げても母が自分の人生を台無しにする」というようなことをいつか話していた気がする。



テイラーを精神病棟に入れたのはルルだった。

詳しいことは知らないがテイラーはいつからか「ルルが自分を貶めようとしている、私の財産を狙っている」という妄想を抱くようになり、私にも「ルルはジェームス(誰…?)と組んで私をハメようとしている」みたいな連絡をしてくるようになった。

いくつかの騒動の末に病院に収容されたテイラーから送られてきた最初の写真は、たぶんリストカットをしたと思われる手首に包帯を巻き点滴を引きずりながら何故か屋外にいて、めっちゃ笑顔の彼女だった。

抗不安剤でハイだったのかもしれない。


いまメッセージを読み返してみて気付いたのだが、この写真に対する私の返信は

“……prison break?”

のひとことだった。

もうこの頃にはテイラーの奇行には慣れていたので「キャアァ大丈夫?!」みたいなノリじゃなかったし、とりあえず病院から脱走したのかどうかを知る必要があると思ったのだろう。

人は時として、笑っていると思ったら突然、死に向かって走り出してしまうようなことがあるし。



そんなテイラーが最近は普通の生活を送り、自宅でパイを作る日々である。

夜の仕事はもう辞めて、その後マッサージの勉強をして今はスパセラピストになったらしい。

初めて会ったのが24くらいの時でそこから10年くらい経っているので、まあ変わって当たり前なんだけど。

でも一時は正直もうダメかもしれないと思ったし、まあ何より本人が生きることに絶望してたと思う。

人は変われるものなのだな。



この歳になると、若くして亡くなってしまった知人も少なからずいる。

まあ生きるのは楽じゃないからね。



でもテイラーが今もどっかでちゃんと生きてて、パイを焼いて、ヨガをしたりハイキングに出かけたりしているのだと思うと、

私はやっぱりとてもうれしいんだ。