甘く蒸し暑い夜

この数ヶ月で世界は大きく変わってしまった。

Shawn MendesのSenoritaを聴くと、ほんの数ヶ月前にバリのセミニャックにいた頃のことを思い出す。

あの時バリを出てすぐまた戻るつもりだったのに、当面はあれが最後の滞在になってしまった。

バリでは基本的にウブドに家を借りているんだけど、ちょっと気分を変えたかったのもありセミニャックに遊びに行ったことがあった。

1週間だけ結構いいホテルに泊まったのだが、そこが最上階のすごーくいい部屋で。

毎晩夜はバーのライブ演奏が部屋に聞こえてきて、遠くに山が望めて下にはプールがあって、バルコニーが広くてそこで快適に仕事できるほどで。
また泊まりたいと思えるいいホテルだった。

そこのバーで毎晩ジャズバンドが演奏していて、よく流れてきたのがSenoritaだった。

むしっとする南国の夜に、温度のあるライブ演奏はすごく相性が良くて忘れられない空気感を作り出す。

自分の部屋のバルコニーでこの曲を聴きながら、1人でいるのがもったいないなあと思っていた。

当時ちょっと好きだった相手が日本にいて毎日連絡を取ってて、この雰囲気を伝えたいし見せたいけど、でも言葉で説明してもビデオを見せても絶対伝わらないなと思ってやめた。

あの温度と湿度と、街の匂いと雑音と。

この空気は、今この場所にいることでしか体験できないんだと感じた。

世界中どこにいても誰とでもやりとりはできるけど、私と一緒に「今ここ」にいられる人というのはすごく限られているんだなとも思った。

この曲を聴くと、あのじわっと暑いバリの夜に一瞬だけ引き戻される。

当時好きだった相手とは何となく疎遠になった。

別に何があったわけでもないけど、彼は旅をする人ではなかったので、私と一緒にあの空気を感じられる相手ではなかった、というのも実は大きかったのかも。

だってあの日に私が感じていた、あの甘く蒸し暑い夜を永遠に共有できることがないなんて。

この曲を聞いてバリの夜に戻るたび、次はあの場所で一緒にいれる相手を選んだほうがいいな、なんてぼんやりと思う。