23年後

CharaのJunior Sweetは1997年に発売されたアルバムなのに、23年後の2020年になってもなお若手のラッパーまでもがサンプリングしてるって、なんかすごいですね。


この曲を聴くと絶対頭に浮かぶ、たぶん永遠に忘れられない光景がある。

別になんてことない瞬間のことなんだけど。

当時私は21歳くらいで、ロクに仕事もせずバイトで食いつなぎながら、夏場は毎週野外フェスやクラブに通っていた。

そもそも私がそういう生活リズムになったのは、近所に住んでいた幼馴染のような友人・アイちゃんの影響で。

中学くらいのときにストリートダンスっぽいことをしていたのだけど、その時に路上で知り合ったアイちゃんはめちゃくちゃ可愛いのにめちゃくちゃ壊れている、明るい絶望みたいな人だった。

元々湘南のとても裕福な家に育ったけど親の会社が倒産したとかで、突然生活が一転し借金のため夜逃げを強いられるような子供時代を送ったらしい。
そんな生い立ちのせいか彼女の金銭感覚はブチ壊れていて、働ける年齢になってからは夜の仕事とかでギリギリ合法に稼ぎまくっていた。
いやギリギリ非合法だったか?

そんな彼女となぜか意気投合して、数え切れないくらいのパーティに連れて行ってもらった。一緒に行った、というよりは文字通り連れて行ってもらったというほうが正しい。年上の彼女が私のチケット代まで払ってくれることもあった。

普通に大学行ってたりフルタイムで仕事してる同年代の子は、あんなに遊ぶ余裕ないしね。
私達は数少ない共謀者のようだった。
とにかく2人とも若かったので「すべて体験したい。なにも逃したくない。瞬間だけ追っかけ続けたい。」みたいな焦燥感に駆り立てられながら遊び続けた。


2004〜5年くらいだったかなあ。
もうなくなっちゃったけど当時STAR GATEっていうパーティオーガナイズチームがあって、そこの開催した「UTAGE」っていうフェスがあったの。

当時シーンが盛り上がってたジャムロックのバンドやサイケデリックトランスのアーティスト、ドラムンベースのDJとか、結構幅広いラインナップがウリのそこそこ大きなフェスだったと思う。

2人でフェスに行く時はアイちゃんがいつも運転してくれて、アイちゃんの買った6人用くらいの巨大なテントで寝泊まりしてた。

2泊3日くらいだったフェスは天気があいにくで、中日によく晴れた以外は行きも帰りもずっと静かな雨だった。
広い会場だったのでテントサイトから駐車場までが離れてて、巨大なテントを担いで私達は女2人で駐車場まで歩かなければならなくて。

音が止まりきる最後の最後まで会場にいたせいで、出発が遅れてもうほとんど駐車場に向かう人が歩いていなかった。

レインコートを着て、シトシト雨が降る中を2人とも無言で歩いてて、ちょうど後ろから通りかかったスタッフと思われる車が山道を徐行で通り過ぎて行った。

その時に車の中から聴こえてきたのがCharaのJounir Sweetだった。

雨の日のフェスの帰り道の、けだるい時間にCharaのアンニュイな声がバチッとハマって。

その瞬間、その時間にそこにいることも、雨が降っていることも、その車が通りかかったことも、運転手の彼がかけていたのがCharaだったことも、すべて必然で起こるべくして起きているという不思議な感覚に包まれた。

もう10年以上前のことで記憶も断片的だし、そのフェスで誰に会ったとかどんなアーティストを見たとかもほとんど覚えていない。

でもその帰り道の光景だけは今も目に焼き付いて離れなくて、Junior Sweetを聴くたびに昨日のことのように蘇って、あの日の肌にはりつく湿度や、フェス会場に漂うお香の香りまで今そこにあるかのように感じられる。


女性同士って大人になるにつれてなんとなく疎遠になってしまうことがあると思う。アイちゃんとはあんなに時間をともにしたのにいつからか会わなくなり、今はどこで何をしているのかも知らない。

いやむしろあれだけの時間を一緒に過ごしたからこそ、大人になるためにそこから離れる必要があったんでしょうね。

私達はずっと瞬間だけに生きてはいられなくて、パッと現れては消えるような生き方から、残り続けていく何かを積み重ねられるように、成長しなければならなかった。



10年、20年経っても色褪せずに人の心に残るって、本当にすごいことなんだなあ。瞬間しか見てなかったあの頃の私は、想像すらもしなかったけど。

あの頃、何度目かの遊び呆けた夏が終わる頃にはもう「こんな日々はうんざりだ」と思っていた。好き放題遊びまくっていたのに、何者でもないまま踊り続けることに最後は苦しさしかなかった。

それから私はダンスフロアを出ていろんなことを試して、それまでと違った旅に出た末に今こうしているわけなのだけど。

あの時あの雨の山道で感じたとおり、全部必然だったのかもね。


あ、アイちゃんはこれ見てたらメールください。
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